(1)「そばイベント」のマンネリ化打破のための発想の転換
(イベント演出的アプローチ) |
| イベント企画のポイントは本来の目的を達成するための手段として企画するものである。そして、参画者・入場者の目線でイベントを考える上で重要なポイント(心得)は、「楽しむ場面の創出」と「ためになる場面の創出」の二点といわれている。これはイベントの雄である博覧会等においてもプロデューサーが演出上、心得る事項であるそうだ。しかし、「楽しむ」ということは比較的検討されるが、「ためになる」という点が欠けているイベントが多い。現在の生活者が求めるポイントもこの「楽しむ」「ためになる」である。そばイベントにおいてもこの「楽しむ」「ためになる」演出をどのように見直していくかがマンネリ化打破のための第1ステップと考える。 |
(2)地域ブランド育成のための戦略としての発想(マーケティング的アプローチ) |
そばイベントの大きな使命・目的は「地域ブランドの育成」である。地域ブランドづくりをめざすためには何が重要かを考える必要がある。そのためには、「地域のそば文化の育成・情報発信」と「地域アイデンティティの醸成」(風土・人情・風景・工芸・芸能等を醸し出す=ココシカ文化(ここにしかないという意味))を地域内外で発信することが必要である。 地域振興の視点では「そばブランド」は「品種ブランド」ではなく「地域ブラド」が重要であることは創刊号で詳しく述べた。ブランドを育成するためには地域をいかにアピールするかがポイントとなる。地域のイメージをかき立て、地域に行きたくなる、郷愁を誘う演出が、そばイベントには求められるということだ。それは地域文化を伝えることであり、同時に木村尚三郎先生風に表現すれば「美しい農の文化」を育てる活動でもある。そばを売ることだけに精を出し、自らの地域づくりを疎かにしていたのでは、官製の駅前の「立ち食いそば屋」を開くことに等しい。税金を使う意味はない。
では、具体的にどうすればよいのか。ここで、まずイメージを掴んでいただく
ため体験事例を二つ紹介したい。
第一は「駅弁」物語である。最近、テレビで神奈川県茅ヶ崎の駅弁業者の若社長を主役とした新商品開発の苦労話が放送された。自分の代に相応しい新しい主力商品を作ろうという企画である。まず、先代の社長子飼いの職人さん達の駅弁づくりに対する従来発想の否定に対する従業員の反発と新商品の産みの苦しみを同時に扱っている。駅弁は旅行者だけではなく、最近はサラリーマン・OLの朝食・昼食として、買い物帰りのご婦人のお土産としても購入されている。やはり駅弁のポイントは地域の郷愁を誘う内容とネーミング。漁師が食べる弁当をイメージに従来の色彩(駅弁には売れる色があるそうだ)を変更し、荒削りな素材のイメージづくり(素材の地肌を出す)、漁師のイメージが出るネーミング等をコストと栄養のバランスを考えながら創作するドラマである。まさに地域ブランドづくりの教科書ビデオといえる。出来た新商品の名前が「浜弁当」。若社長が浜辺で夕日を眺めながら閃いた名前が「浜」、少しヤラせっぽいが絵になる。デパートの駅弁大会での販売が新商品の最初の挑戦となるのがなかなか売れない。はやり商品にあった売場場面が必要なのか。そして、定番の駅売店での挑戦。徐々にここでの売上げが伸びていく。仕込みが間に合わないという喜びの忙しさの光景が映し出されて番組は終わる。このドラマをみて駅弁をもっと勉強してみる必要があると痛感した。教材は意外と身近にあるものだ。
第二の事例は近鉄百貨店でかつて行った「大北海道展」である。大阪阿倍野店のS元食品部長の要請で北海道の関係市町村に出展の応援を要請したc 百貨店で人を呼び込む物産展は北海道、飛騨、九州が御三家で、全国駅弁大会(京王百貨店が草分)がそれに続く。ここで百貨店側が工夫したのが北海道の地域イメージをどう店内で演出するか。まず行ったのが富良野・美瑛の写真を拡大して壁面一杯に張り付けるとともに、美瑛町在住の写真家・前田真三氏の写真をお借りしての展示、さらに青まで店内に流して北海道気分を盛り上げた。売上げは従来を越えたという報告を受けたのを覚えている。
このように、地域のイメージを売り手、買い手が共有出来る戦略が有効である。地域のイメージの伝達が地域ブランドづくりのために必要な第2ステップである。 |
(3)食イベントとしての対策(食文化としてのアプローチ) |
食のイベントで注意しなければならない点が素材の展示に終わってしまうことである。農村で行われる共進会型展示は生産者にとっては技術を競い、盗む場として興味をそそるが、一般生活者を対象としたイベントとしては落第である。かつて、農林水産省が音頭をとって全国で行った「食の博覧会」が不評であった原因が共進会型演出であったことだ。食のイベントで心得なければならないポイントが実演(技・人のコミュニケーション)重視である。具体的には、技を披露し、それを競う(職人・達人)場を設け、合わせて健康(身体に良い)に寄与するという情報を伝達することといわれている。五感に訴える演出が必要不可欠であるとともに、ここでは「学ぶ」という演出への配慮が必要となる。
また、展示(参加市町村の配列)も「意味と文脈」がなければならない。ただ並べれば良いというものではない。そばで言えば、夏そば・秋そば型、ざるそば・おろしそば・つゆそば型等、地域の風土や食文化によって多種多彩なジャンルがある。それをどのような「意味と文脈」で展示するかが大きなポイントとなる。
さらに、そばは「モノカルチャー」の議論が多いことに気づく。そば粉や打ち方だけが強調され過ぎてはいないか。そばの周辺文化というべき演出が少ない。「そば」という主役を引き立たせる「つゆ」「器」「薬味」「添え物(天ぷら、漬物等)」「酒」等の脇役の存在が見えない。
福島県会津地域では、「鰊」を活用した寿司や漬物の類が地域の伝統色となっている。「何故、会津で鰊なのか?」誰でも好奇心が沸く。これがコミュニケーションのきっかけとなる。イベントの基本は、主催者と参加者のコミュニケーションの増進である。会話のきっかけは好奇心をそそる出来事である。会津の本当のそば通は意外と鰊料理を知っていることなのかもしれない。「だし汁も昆布だしなのか・・・・勝手に話題は広がるものだ。」そして、「今度は是非、会津に行こう!」となる。参加者が会津を訪れて「会津そば」の神髄に触れて満足が得られ、これがイベントの成果となる。これでイベントを実施した使命がはじめて完結するのである。 |
(4)農イベントとしての対策(農・医学的アプローチ) |
そばイベントの神髄は「季節の旬」の演出である。まさに農的空間、自然環境との触れ合いである。「素材を学ぶ」と言い換えても良い。
今、農業をめざす人から農的生活・趣味(園芸)を楽しむ人まで参加できる「就農準備校」が大流行である。市民農園・体験農業も都市で流行っている。体験農業は野菜づくり、果実づくり、花づくりから始まり米づくりを経て、援農(プロを手伝)まで到達するのが「農的生活オタクのフルコース」といわれている。本当のそば通もそばを栽培し、粉にし、道具を揃えて、打って、つゆを作って、器を選んで、酒を選んで、肴を作って、茹でて、盛りつけて、食べて、後片づけをするのが「そばオタク」といえないだろうか。この一貫した流れが男の料理であり粋と人々に思わせる要因なのではないか。この「そばオタクシステム」に触れてもらう「情報・機会・場」の提供が必要である。そばの栽培以外については前述した通りであるが、栽培、そばの特性、いわゆる農・医学的アプローチは「環境」「健康」への関心が高まっている現在、非常に重要なキーワードである。そばには、従来からルチンという血管の弾力性を保つ作用のある物質が含まれていることが広く知られているが最近、アンジオテンシンTという物質を血圧上昇作用のあるアンジオテンシンUに変換する酵素の作用を阻害する物質がそばに含まれていることが発表された。いわゆる血圧上昇作用を阻害する効用があるという。ルチンは玄そばの内層に、アンジオテンシン変換酵素阻害物質は外層に多く含まれているそうである。従って、更級そばはルチンは多いがアンジオテンシン変換酵素阻害物質は少なく、薮挽きぐるみのそばは両方がバランスよく含まれているといえる。また、そばは無農薬のシンボルのようなものであり、環境や人にやさしい作物である。ここを強調しない手はない。「学ぶ」「ためになる」イベントとは、このようなポイントを押さえた演出といえる。 |