ZEN麺 Hot News ’98夏号
                (1998年8月発行)




第1章連載特集『食と農を考えるイベント戦略T』
全麺協顧問   松村 廣一
1.「そばイベント」の傾向
 最近、全麺協の会員市町村から「そばイベント」のあり方についての質問がよく出されるようになって来た。その背景・問題意識には「そばイベント」のマンネリ化に対する危機感が考えられる。
 「そばイベント」といえば官民を問わず、ある一定のパターンが定着している。例えば@実演販売(飲食) A展示即売 B名人技披露(そば談義) Cアトラクション(早喰い競争・歌謡ショー等)等が一般的である。全麺協会員市町村ではこれにDそばシンポジウム E素人そば段位認定大会等が加わる。
 情報の多様化や氾濫にともない生活者(顧客)の期待が高まり、マンネリ化したイベントへの飽きが見られるという悪い予感が主催者に漂いつつある。予感がするうちに次の一手を考る意味で「食と農のイベント」のあり方について検討を始めようというのがこのシリーズの連載の動機である。会員各位の寄稿(アイデア提案)もお願いしたい。
 第一弾として「困った時は原点に立ち返れ!」という視点から「そばイベント」をその使命(目的)と戦略という視点で検討していきたいと思う。



2.「そばイベント」の目的別アプローチによる見直し(初心に戻ろう!)
(1)「そばイベント」のマンネリ化打破のための発想の転換
   (イベント演出的アプローチ)
 イベント企画のポイントは本来の目的を達成するための手段として企画するものである。そして、参画者・入場者の目線でイベントを考える上で重要なポイント(心得)は、「楽しむ場面の創出」と「ためになる場面の創出」の二点といわれている。これはイベントの雄である博覧会等においてもプロデューサーが演出上、心得る事項であるそうだ。しかし、「楽しむ」ということは比較的検討されるが、「ためになる」という点が欠けているイベントが多い。現在の生活者が求めるポイントもこの「楽しむ」「ためになる」である。そばイベントにおいてもこの「楽しむ」「ためになる」演出をどのように見直していくかがマンネリ化打破のための第1ステップと考える。

(2)地域ブランド育成のための戦略としての発想(マーケティング的アプローチ)
 そばイベントの大きな使命・目的は「地域ブランドの育成」である。地域ブランドづくりをめざすためには何が重要かを考える必要がある。そのためには、「地域のそば文化の育成・情報発信」と「地域アイデンティティの醸成」(風土・人情・風景・工芸・芸能等を醸し出す=ココシカ文化(ここにしかないという意味))を地域内外で発信することが必要である。 地域振興の視点では「そばブランド」は「品種ブランド」ではなく「地域ブラド」が重要であることは創刊号で詳しく述べた。ブランドを育成するためには地域をいかにアピールするかがポイントとなる。地域のイメージをかき立て、地域に行きたくなる、郷愁を誘う演出が、そばイベントには求められるということだ。それは地域文化を伝えることであり、同時に木村尚三郎先生風に表現すれば「美しい農の文化」を育てる活動でもある。そばを売ることだけに精を出し、自らの地域づくりを疎かにしていたのでは、官製の駅前の「立ち食いそば屋」を開くことに等しい。税金を使う意味はない。
 では、具体的にどうすればよいのか。ここで、まずイメージを掴んでいただく
ため体験事例を二つ紹介したい。
 第一は「駅弁」物語である。最近、テレビで神奈川県茅ヶ崎の駅弁業者の若社長を主役とした新商品開発の苦労話が放送された。自分の代に相応しい新しい主力商品を作ろうという企画である。まず、先代の社長子飼いの職人さん達の駅弁づくりに対する従来発想の否定に対する従業員の反発と新商品の産みの苦しみを同時に扱っている。駅弁は旅行者だけではなく、最近はサラリーマン・OLの朝食・昼食として、買い物帰りのご婦人のお土産としても購入されている。やはり駅弁のポイントは地域の郷愁を誘う内容とネーミング。漁師が食べる弁当をイメージに従来の色彩(駅弁には売れる色があるそうだ)を変更し、荒削りな素材のイメージづくり(素材の地肌を出す)、漁師のイメージが出るネーミング等をコストと栄養のバランスを考えながら創作するドラマである。まさに地域ブランドづくりの教科書ビデオといえる。出来た新商品の名前が「浜弁当」。若社長が浜辺で夕日を眺めながら閃いた名前が「浜」、少しヤラせっぽいが絵になる。デパートの駅弁大会での販売が新商品の最初の挑戦となるのがなかなか売れない。はやり商品にあった売場場面が必要なのか。そして、定番の駅売店での挑戦。徐々にここでの売上げが伸びていく。仕込みが間に合わないという喜びの忙しさの光景が映し出されて番組は終わる。このドラマをみて駅弁をもっと勉強してみる必要があると痛感した。教材は意外と身近にあるものだ。
 第二の事例は近鉄百貨店でかつて行った「大北海道展」である。大阪阿倍野店のS元食品部長の要請で北海道の関係市町村に出展の応援を要請したc 百貨店で人を呼び込む物産展は北海道、飛騨、九州が御三家で、全国駅弁大会(京王百貨店が草分)がそれに続く。ここで百貨店側が工夫したのが北海道の地域イメージをどう店内で演出するか。まず行ったのが富良野・美瑛の写真を拡大して壁面一杯に張り付けるとともに、美瑛町在住の写真家・前田真三氏の写真をお借りしての展示、さらに青まで店内に流して北海道気分を盛り上げた。売上げは従来を越えたという報告を受けたのを覚えている。
 このように、地域のイメージを売り手、買い手が共有出来る戦略が有効である。地域のイメージの伝達が地域ブランドづくりのために必要な第2ステップである。

(3)食イベントとしての対策(食文化としてのアプローチ)
 食のイベントで注意しなければならない点が素材の展示に終わってしまうことである。農村で行われる共進会型展示は生産者にとっては技術を競い、盗む場として興味をそそるが、一般生活者を対象としたイベントとしては落第である。かつて、農林水産省が音頭をとって全国で行った「食の博覧会」が不評であった原因が共進会型演出であったことだ。食のイベントで心得なければならないポイントが実演(技・人のコミュニケーション)重視である。具体的には、技を披露し、それを競う(職人・達人)場を設け、合わせて健康(身体に良い)に寄与するという情報を伝達することといわれている。五感に訴える演出が必要不可欠であるとともに、ここでは「学ぶ」という演出への配慮が必要となる。
 また、展示(参加市町村の配列)も「意味と文脈」がなければならない。ただ並べれば良いというものではない。そばで言えば、夏そば・秋そば型、ざるそば・おろしそば・つゆそば型等、地域の風土や食文化によって多種多彩なジャンルがある。それをどのような「意味と文脈」で展示するかが大きなポイントとなる。
 さらに、そばは「モノカルチャー」の議論が多いことに気づく。そば粉や打ち方だけが強調され過ぎてはいないか。そばの周辺文化というべき演出が少ない。「そば」という主役を引き立たせる「つゆ」「器」「薬味」「添え物(天ぷら、漬物等)」「酒」等の脇役の存在が見えない。
 福島県会津地域では、「鰊」を活用した寿司や漬物の類が地域の伝統色となっている。「何故、会津で鰊なのか?」誰でも好奇心が沸く。これがコミュニケーションのきっかけとなる。イベントの基本は、主催者と参加者のコミュニケーションの増進である。会話のきっかけは好奇心をそそる出来事である。会津の本当のそば通は意外と鰊料理を知っていることなのかもしれない。「だし汁も昆布だしなのか・・・・勝手に話題は広がるものだ。」そして、「今度は是非、会津に行こう!」となる。参加者が会津を訪れて「会津そば」の神髄に触れて満足が得られ、これがイベントの成果となる。これでイベントを実施した使命がはじめて完結するのである。

(4)農イベントとしての対策(農・医学的アプローチ)
 そばイベントの神髄は「季節の旬」の演出である。まさに農的空間、自然環境との触れ合いである。「素材を学ぶ」と言い換えても良い。
 今、農業をめざす人から農的生活・趣味(園芸)を楽しむ人まで参加できる「就農準備校」が大流行である。市民農園・体験農業も都市で流行っている。体験農業は野菜づくり、果実づくり、花づくりから始まり米づくりを経て、援農(プロを手伝)まで到達するのが「農的生活オタクのフルコース」といわれている。本当のそば通もそばを栽培し、粉にし、道具を揃えて、打って、つゆを作って、器を選んで、酒を選んで、肴を作って、茹でて、盛りつけて、食べて、後片づけをするのが「そばオタク」といえないだろうか。この一貫した流れが男の料理であり粋と人々に思わせる要因なのではないか。この「そばオタクシステム」に触れてもらう「情報・機会・場」の提供が必要である。そばの栽培以外については前述した通りであるが、栽培、そばの特性、いわゆる農・医学的アプローチは「環境」「健康」への関心が高まっている現在、非常に重要なキーワードである。そばには、従来からルチンという血管の弾力性を保つ作用のある物質が含まれていることが広く知られているが最近、アンジオテンシンTという物質を血圧上昇作用のあるアンジオテンシンUに変換する酵素の作用を阻害する物質がそばに含まれていることが発表された。いわゆる血圧上昇作用を阻害する効用があるという。ルチンは玄そばの内層に、アンジオテンシン変換酵素阻害物質は外層に多く含まれているそうである。従って、更級そばはルチンは多いがアンジオテンシン変換酵素阻害物質は少なく、薮挽きぐるみのそばは両方がバランスよく含まれているといえる。また、そばは無農薬のシンボルのようなものであり、環境や人にやさしい作物である。ここを強調しない手はない。「学ぶ」「ためになる」イベントとは、このようなポイントを押さえた演出といえる。



3.「食のメディア化」を活かしたイベント戦略の提案 
【食のメディア構造】
C:K,Matsumura

 以上、4項目について「そばイベント」を見直す必要があることを提案した。
 「イベント演出」「マーケティング」「食文化」「農・医学」的アプローチである。これを従来、私どもが主張している「食のメディア構造(効果)(注1)」(交流人口等を活かした地域内市場形成や特産品開発の市場開発を行う際には、「飲食の系(空間)」の充実が非常に重要であり、「飲食」を通じて得られる満足感は他のメディアを利用したものより優れているというもの。いわゆる「百聞は一見にしかず」ではなく「百聞・見・読は一食にしかず」という理論)という概念と比較してみると、「食べる」という行動は前図のように地域の「農業(素材)」「環境・風土(環境保全の心)」「生活の知恵・地域文化(習慣・マナー等)」「器(工芸)」を容易にかつ瞬時に理解してもらう行為である。裏を返せば、このような演出を施さなければ人を地域に魅了させたり、マーケットを創造したり、ヒット商品・有力商品を誕生させたりすることは困難であるということを意味する。
 従って、「そば」を売り込むためには「食のメディア構造」となるような付加価値を付けなければならない。イベントのアプローチポイントの4つの視点が「食のメディア構造」の4つのポイントと重複するわけはここにある。バナナの叩き売りもりっぱな口上(コミュニケーション、イメージ戦略)があるから買ってしまうのである。単なるそばの飲食提供イベントから高次のイベント戦略へ飛躍する時期に来ている。全麺協会員は「そばのマーケティングリーダー」をめざしているのであるから。

(注1)平野繁臣・松村廣一「分権時代の地域経営戦略」同友館1997年出版



4.食と農のイベント診断(実務編1)
 そばイベントの新たな展開を図るための議論を本誌上で会員からもアイデアを出していただきながら進めていきたい。初期の飲食展示型イベントから卒業し、次の段階のイベントに挑戦しそいく道筋を考えることとしたい。はじめに、東京事務所からアイデアを提案させていただきたい。次の段階のイベント展開のポイントは、@イベントの演出工夫(楽しむ・学ぶ)A地域ブランドづくり(イメージ)B食文化(そば周辺文化の発掘)C農・医的アプローチの4項目を基本に置くことにする。それぞれ重要な事項であるが大きな意味でAとBに注目したい。

(1)地域独自のそば・地域イベントルネッサンス作戦(その1)
 具体的にイベントをどのように再生させていけばよいのだろうか。イベントの基本とは、6W2H(why,What,Who,Whom,Where,When,how,how much)である。どのような目的を達成するためにどのような手順で行っていくのかを明確に検討しておくことが大切である。ここでは、楽しくイベントを再活性させるためのプロジェクト活動のあり方についての試案を紹介したい。
 地域のそれぞれの分野の顔役(リーダー)からなる「そばイベントルネッサンス会議」を設置する。この場では、目的の再確認と従来のイベントの評価を行い、課題を抽出する。次に、検討を通じて得られた課題を解決するための手法を考える実務者参画による「作業部会」を組織する。この作業部会の構成メンバーは親会議が推薦した実務者で行うことが望ましい。地域の顔役と実務者が一体となって検討したという形をつくることが重要である。メンバーには女性の参画も必要不可欠と考える。

(2)楽しい作戦ボードの活用
【そば・地域イベント・ルネッサンス作戦ボード】
  ジャンル
演出 地域イメージ 文化範囲 農・医 挑戦意欲
段階 1st step 10点 10点 10点 10点 40点
2st step 30点 30点 30点 30点 120点
3st step 50点 50点 50点 50点 200点
戦略項目
重点項目
例えば
総合
360点
*▲一△→○一◎というように検討、実施の優先順位を設定する。 C:K&M
 前図は、クイズ番組のボードを活用した「そば・地域イベントルネッサンス作戦ボード」である。アイデアを出すジャンルは「演出」「地域」「文化」「農・医」の4つとなる。

 例えば、文化のジャンルでは、そばを使った新たな食文化(メニュー・レシピー)に挑戦することを選んだとする。いきなりヒット商品をつくることは難しいので出来ることから挑戦するという意味で難易度順に、
 “食文化・メニューの10”は「2・8そばパン」
 “食文化・メニューの30”は「そばクレープ」「そばおやき」
 “食文化・メニューの50”は「そばモンブラン」
というように具体的な目標を考え、設定し、そのためのプロセスを考える。最近のニュースでは長野県小川村にある「おやき」の製造販売で成功している第三セクター「鰹ャ川の庄」と飛騨牛の産地であり交流事業に熱心に取り組んでいる岐阜県清見村の第三セクター「パスカル清見」が商品連携を行い「飛騨牛おやき」という新商品を開発した。手軽に飛騨牛を賞味できるということで飛騨ブランドを広く知らしめる商品と期待されている。地域の山菜や牛肉、鶏肉、馬肉、豚肉をそばと絡ませる一石二鳥作戦ともいえそうだ。そばに添える軽い副食にもなるのではないか。

 また、同じ食文化のジャンルでもそば関連商品ではなく「器」「薬味」「肴」等であってもよいわけで「器」であれば、
 “食文化・器の10”は「陶器の活用」
 “食文化・器の30”は「木の活用」
 “食文化・器の50”は「和紙の活用」
「薬味」であれば、
 “食文化・薬味の10’’は「ねぎへのこだわり」
 “食文化・薬味の30”は「大根へのこだわり」
 “食文化・薬味の50”は「わさび・七味唐辛子へのこだわり」
「肴」であれば、
 “食文化・肴の10”は「そば生地煎餅」
 “食文化・肴の30”は「そば粥」
 “食文化・肴の50”は「漬物・寿司」
となる。

 このように、そばモノカルチャーから脱皮し食文化に関する周辺文化をアピールすることも必要である。差別化とはこのような趣味・趣向の多様性を示すことでもある。
 「竹やぶ」当主の阿部孝雄氏が多彩な趣味を持ち自己を磨いているのは、氏が尊敬する魯山人を見習って食の奥深さを表現し差別化しようとする試みではない
だろうか。

 それでは、演出のジャンルではどのようなことが考えられるだろうか。
 “演出・売り方の10”は「そばの原点の屋台そば」
 “演出・売り方の30”は
      「ルチン増量・アンジオテンシン変換酵素阻害物質増量そば」
 “演出・売り方の50”は「・・・・・・」
等である。

 このように、ジャンルを設定し取組ジャンルにも優先度を付け、さらにジャンル毎に地域色の出る目標アイデアを難易度順に並べ、段階的に取り組んでいくというものである。ポイントを押さえながら、評価・達成度も比較検討できるシステムといえないだろうか。是非、お試し願いたい。









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